手紙

感情の交差が生み出す感動的な人間ドラマ

直木賞作家、東野圭吾の原作小説を山田孝之主演で映画化。自分を大学にやるために盗みに入り、その末に過って人を殺めてしまった兄。主人公は「殺人者の弟」というレッテルを貼られ、世間から差別され続ける人生を送ることになる。何度も何度も立ちふさがる世間の壁。その為に失ってきた夢と恋人。そして、獄中から届き続ける兄の手紙。
「兄貴がいる限り、俺の人生はハズレ」
そう考えた彼は、兄との唯一の繋がりであり鎖でもある手紙を断ち切ることを決心する。

白夜行」の東野×山田コンビ。更に「タイヨウのうた」の山田×沢尻コンビという、どこかで見たことのあるカップリングばかりで、正直最初は「どうだろうか」と危惧していたが、観賞後には涙が止まらないほどの感動に打ち震えていた。これはただ「泣かせるフラグ」だけを用意し、それを消化することで安直に観客を「泣かせる」映画ではない。映画の中に生きる人々の歴史という縦糸と感情の横糸を丁寧に織り上げていき、そのシンフォニーが生み出す深い人間ドラマに心が突き動かされ、その結果涙が溢れ出すという「泣かずにはいられない」映画だ。人が背負う罪とは何か、本当の贖罪とは何なのかという重いテーマに奇麗事ではなく真正面から向き合う姿勢。そこから見えてくる人と人の本当の絆。多くの問いかけと様々な感情の入り乱れをひとつひとつ纏め上げ、それぞれに明確な答えを配置していく脚本と演出は地味でありながらもしっかりした仕上がり。何よりも主演の山田孝之の演技が凄い。かなりハイレベルな感情表現を要求されるクライマックスシーンを見事に演じ切り、芝居で観客の心に直接訴えかけてくる。雰囲気や演出に頼りがちの若い役者が多い中、卓越した演技力を見せている。原作では彼が演じる主人公はミュージシャンを志し、成功を目前に挫折するという設定であったが、映画ではこれがお笑い芸人に変更されており、それがクライマックスにおいて重要なファクターとなっているのも見所のひとつだ。原作の感動を活かしつつ、より映像的にアレンジされたこのクライマックスシーンは、個人的にここ最近見た邦画の中ではダントツの名場面。彼を支え続ける沢尻エリカの方は、関西弁に違和感があるのは否めないが、芯の強い凛とした表情は彼女にしか出せないものだろう。突出した存在感で重苦しい物語の中に鮮やかな光を投げかけている。関西弁ではなかった方が、彼女の魅力をもっと引き出せたように思えるのが残念だ。

確かに物語にも演出にも派手さはない。けれども何ひとつ誤魔化さず、真っ向勝負で人間の闇と可能性を描き切った本作は、何年経っても心に残り続ける一本だ。船が沈まなくとも、ましてや日本が沈まなくとも、不治の病で人が死ななくとも、人の心を動かすことは出来るということを教えてくれる作品である。感動すら消費され、少し食傷気味になっている人に味わって欲しい最高級の人間賛歌映画だ。