プライマー

今までにない知的SFスリラー。でも…

画期的な冷却システムを開発しようとしていたエンジニアのアーロンとエイプは、ふとした偶然からタイムマシンを作り上げてしまう。二人はそれを使い、株で儲けようと企むのだが、タイムパラドックスの不安に徐々追いつめられていき、更に過去に存在するもう一人の自分(ダブル)の存在に悩まされる羽目に…というのが大まかなあらすじ。これだけ読むと、今までのタイムパラドックス物映画と何も変わらないと思ってしまうだろうが、この映画は元エンジニアだった監督のシェーン・カルース(出演やら脚本やら音楽やら色々やって一人7役こなしている模様)が、しっかりとした科学理論に基づき、今までになく現実的に、しかも無茶苦茶地味に作った超知的SFスリラー。
まずタイムマシンの発明までの経過と説明にもの凄く膨大な時間を割いているのが凄い。下手したらここで観客の1/3くらい観るのを止めてしまうんじゃないかと言うくらい段階と経緯を経ている(30分くらい?)。しかも登場人物の会話が分かり易くしているとは言え、専門的な部分もあるので、気を抜くとタイムマシンの原理を理解出来ず、それから先の物語に全くついていけないと言う突き放しっぷり。軽くネタバレになるのだが、作品自体の面白さが変わる程ではないので、この映画のタイムトラベルの方法を説明すると、

1.ホテルの部屋に閉じ籠もり、株価を調べておく(閉じ籠もるのは時間を遡っている間のダブルの動きを封じるため)。
2.重力を遮断することで質量を減らし、時空を歪ませた空間に数時間居ることでゆっくりと時間を遡る。
3.株を買って儲けて、後は普段通り過ごす(ただし、空の装置も動かしておく。何故なら、過去に遡っている最中のダブルが装置内に存在するため)。

この説明だけでちょっと頭が痛くなってきたが、読んでもらえると分かる通り、この映画の最も肝な部分は、主人公の二人がエンジニアであるために、非常に理知的にタイムトラベルを行っていること。考えられるトラブルを極力減らし、タイムパラドックスが起きないよう、細心の注意を払って行動している。が、それ故に想定外の事態でタイムパラドックスが起こってしまうと神経質になり、それが続くと摩耗して精神的に追いつめられていく。更には、重力を遮断したり、質量を減らしたり、時空を歪ませたりしている箱の中に長時間居たりするので、人体に悪影響も出始めて彼らを追いつめる。そうこうしていくうちに、二人はお互いも信用出来なくなり、己の目的の為だけに好き勝手に行動を始め(非常用タイムマシンも出てきたりして事態は更に複雑化)、相手のダブルの動きを封じたりして、それが更なるタイムパラドックスを生み出したり…と後半はもうてんやわんや。画面に出ている登場人物のどれがオリジナルかダブルかが分かりにくく、混沌としてきます。今までのタイムトラベルもののノリや痛快さを全否定するような地味さで静かに淡々と描いていくので、わけが分からなくなった人はもう寝るしかないでしょう。
というか、かく言う僕も後半の怒濤の展開には流石について行けず、よく分からない部分が結構あったりします。話の時系列も乱れているのでもう二、三回観ないと多分確実に理解出来ないでしょう(その手の話に強い方の同行も希望)。
着眼点も見せ方も新しいので、全部が理解出来たらかなり面白いのだろうと言う匂いがしつつも、如何せん分からない部分が多すぎて、消化不良なのが正直なところ。情報をもう少し整理するだけでも格段に見やすくなるので非常に悔やまれます(とは言え、監督自身分かり易く作ろうという意志がないと思われ)。傑作とも超駄作とも言えますが、ちょっとアーティスティックに走った間延びした演出がやや退屈なことだけは確か。うーん、流石「サンダンス映画祭で絶賛」という謳い文句つきの作品と言うところでしょうか(笑)。