いかれたBABY / フィッシュマンズ

時間を越える熱気

いかれたBaby
今年に入ってベストアルバムを発売し、RISING SUN ROCK FESTIVALにて実に6年振りのライヴを行い、奇跡的な復活を遂げたフィッシュマンズ。復活ツアーを前にして発売したのは7年前に赤坂ブリッツで行ったライヴ音源を収録したワンコインシングル(1枚たったの500円)。
実を言うと僕はフィッシュマンズをリアルタイムであまり聴いていない。ちゃんと聴きだしたのはボーカルの佐藤伸治の死後からだ。彼らがどんなに偉大なバンドだったかと言うことを知ったのは少しばかり遅れてとなる。そんな状態だったからライヴを見たことがないし、当時はまだ地元の京都に住んでいたので、この音源に収録されている赤坂ブリッツには行ったこともなかった。しかし、どうだろう。このCDを聴くと時間を遡り、今は無き赤坂ブリッツでのフィッシュマンズのライヴがしっかりと眼前に広がるではないか。見たこともないはずの佐藤君の動き、表情、歌声。会場の熱気と照明。額の汗や壁の小さな傷まではっきりと見える。
音の状態の良さもあるだろうが、何よりも色褪せない楽曲の芯の強さと、ずっとずっと先を見つめている未来へと突き進もうとする力がこの中には新鮮なままフリーズパックされている。目指していた未来がまさかあんな形で途切れてしまうなんて、誰も想像していなかったあの頃。あまりに悲しい事実は未だ重くのし掛かっているが、今フィッシュマンズはその途切れた未来を再び繋ごうとしている。このCDの中の熱気は永遠に止まり、永遠に生き続けるが、その止まった時間を動かしてここから先の未来を紡いでいくのは僕たちだ。思い返せば、僕たちは失った何かを取り戻すため、大人になったのではなかっただろうか。何処まで突き進めるか分からないが、再び動き出したフィッシュマンズは佐藤君の見れなかった未来を目指している。だから、今度こそ僕は見届けようと思うのだ。それが残された僕たちに出来る最大限の恩返しなのだから。