NIKKI / くるり

隣で鳴っていてくれる音楽

NIKKI(初回限定盤DVD付)
「Baby, I Love You」のレビューで散々語り尽くしてしまった感はあるのだが、くるりのアルバムがようやく発売となった。どえらいアルバムである。一曲一曲のクオリティが異様に高い。全曲をシングルカットしてもおかしくないほどの粒揃いだ。その為アルバム全体としての流れが散漫になっている部分もあるが、これまでのくるりはシングルは奔放でありつつも、アルバムは全体の流れを考えすぎるあまりどれも窮屈になってしまい、結果として非常に閉じたものになっていた。そのことを考えれば、逆にこの散漫さがアルバム全体の持つ世界観をぐっと広げる役割を果たしていると言っていいだろう。アーティストが設定した物語を読むような道筋を辿る構成ではなく、短編小説を自分の好きな順から読むような自由度が心地良い。組み合わせを変えれば何度も何度も読み返せる奥深さ。J.D.サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」を思い出してしまった。
「お祭りわっしょい」の狂騒ロックンロールナンバーや、ゆるやかに低空飛行するように歌い紡がれる「スーパースター」の軽やかなポップネスで今まで見せてきたくるり節を見せつつも、今回顕著に見え隠れするのは60年代から70年代のクラシック・ロックだ。特にTHE WHOなどに代表されるモッズ・カルチャーに対するオマージュがそこかしこにある(「Baby, I Love You」のPVはまんま「さらば青春の光」ではないか!)。「くるり」としての原点回帰ではなく、ロックンロールそのものの「原点」を探ることで、彼らは今何を鳴らし、何を歌うのかということと向き合ったのではないだろうか。源流から発せられたしなやかなメロディには流行も廃りもなく、邦楽・洋楽といった壁を超えたエヴァー・グリーンな輝きが満ちあふれており、老若男女の心をダイレクトに揺らす。あまりにも多様化しすぎた現在で、僕たちが本当に必要としているのは、生温いレベル・ミュージックでもなく、実験性を押し進めたロックンロールでもなく、嘘くさい平和を訴える歌でもなく、常に隣で鳴っていてくれる音楽なのかもしれない。このアルバムには無駄な主張が一切ない。でも、だからこそそこに無限のストーリーを見出せるのだ。タイトルの「NIKKI」はきっと僕たちの「日記」なのだろう。白紙の日記帳に自分のストーリーを書き込むのは僕たちなのだ。