JUKE BOX / BENT FABRIC

こんなジジイに僕はなりたい

Jukebox
「これファットボーイの新曲?」なんて思っていたら、実は81歳(今年82歳)のジャズ・ピアニストの曲だと言うのだから驚かされる。跳ねるダンスビートとほとばしるピアノ。その無邪気なまでの奔放さは10代の少年を思い起こさせるほど瑞々しい。かと思いきや、ジャズ、ファンク、ソウルなどの幅広いジャンルを飲み込んだ多彩なアレンジをすっきりとまとめてシンプルなポップとして聴かせるという老練の技も垣間見せてくれたりするのもなかなかニクい。いや、そんなことは最早どうでもいいのだ。82歳のジジイがこんなものを世に送り出すというそれ自体がもう完全にロックンロールではないか。この歳にまでなって、まだオーディエンスとコミュニケートしようとするその熱さに僕は目頭が熱くなってしまった。
仕事柄「あなた達は簡単に書くけど、あなたにとっての『ロック』って何ですか? 『ポップ』って何ですか?」なんて意地悪な質問を時にされることがあるが、その時は決まって「ロックは生きること、ポップは繋がること」だと答えている。生きる喜び、怒り、悲しみをビートとメロディに乗せて刻んでいくことがロック。そして、それらをより多くの人々と共有するための幻想や手法がポップ。人それぞれ定義は違うだろうが、少なくとも僕にとって「ロック」と「ポップ」はそうだ。このアルバムにはそのどちらもある。10代だからこそ出せる青臭い激情や怒り、20代で見せる葛藤、30代の成熟…。多くの紆余曲折や苦悩、達成感。それらを乗り越えた末に辿り着いた「人生をとことん楽しんでやろう」という境地。手元に資料がないので、何の説明も何の背景も分からないが、この音を聴けばそれは顔や手に刻まれた皺のように多くを語っている。そして、だからこそ僕たちは瞬時にこの喜びの中へと飛び込んでいけるのだ。僕にこれから先どんな未来が待っているか何て分からないが、もし82歳まで生きていられたら、こんなジジイになっていたい。そして、若い奴らがびっくりするようなことをやらかしてやるのだ。挑戦と闘争は死ぬまで出来るのだから。