Ill

次への標識か。はたまた迷い森への誘いか。


CISCO RECORDS限定で販売された元SUPERCARNYANTORAのナカコーによるネクスト・プロジェクトのプロモレコード。すでに完売となっており、現在では入手困難となっている。あの魔法のようなバンドを率いていたナカコーの次の動向と言うことで、このプロモ盤から何かをつかめるのではないかと期待して聴いたのだが、聴けば聴く程分からなくなったというのが正直な感想だ。エレクトロニカやテクノを基盤とした打ち込みサウンドに傾倒するであろうと言うのは予想の範囲内ではあったが、かと言ってこういった音をナカコーがやることに意義があるのかと言えばそうでもない気がする。いや、確かにナカコーならではのあの切なくも透明感溢れるメロディは存在するし、キング牧師の演説をサンプリングしたりと遊び心も垣間見せていて、面白いと思える部分もあるのだ。しかし、こういったサウンドは巷に溢れかえっており、ナカコーがやることで何か新しいことが拓けるわけでもなく、ナカコーだからこそという個性もあまり見えてこない。音の作り込みでいうなら、もっと本格的なものを作成する人は大勢いるだろう。極端に言ってしまえば、現在ある程度形成されているシーンにナカコーがただ参入しただけのようにしか見えないのだ。常に変化し続け、無言で進化を訴えかけたあの美しさと気高さは、このプロモ盤を聴く限りでは伝わってこない(もちろんバンドとソロとでは全く別物なのだけれども)。テクノシーンのコア・ユーザーを獲得するにはあまりに未熟な気がするし、かと言って元SUPERCARファンが素直に飛びつける程キャッチーでもない。彼はこれから誰のために音楽を発信し、何処へ向かおうとしているのだろうか。
とは言え、まだプロジェクトが本格的にスタートしたわけではないので結論を出すのはまだ早いだろう。こんなプロモを出しておきながらも、蓋を開けてみたらもの凄くポップだったりと言うことも有り得たりするのだ(ナカコーなら尚更有り得る)。どこか人を食ったような先の読めなさは相変わらずと言ったところか。そう言う意味では「Ill(悪)」とは実に良いネーミングではないだろうか。