Circle / 木村カエラ

完全なアイドルアルバム。ただし、90年代リバイバル感たっぷり!みたいな!

Circle(初回盤DVD付)
うーん。冒頭からいきなり何だと突っ込まれてしまいそうだが、実際このアルバムを聴いて、うーんとしか言えないのだからしょうがない。とにかくプロデュース陣は豪華なのだ。岸田繁(くるり)、曾田茂一(EL-MALO)、高桑圭(GREAT 3)、奥田民生堀江博久(二ール&イライザ)、mito(クラムボン)、渡邊忍(ASPARAGUS)、吉村秀樹(bloodthirsty buchers)、田淵ひさ子(Number Girl)…。こうして名前を挙げてみるだけでも、思わず「おお」なんて呟いてしまうほど、なんともまあ、そうそうたる顔ぶれである。90年代中盤から後半に青春期を過ごし、ロッキンオン・ジャパンを毎月一生懸命読んでいた少年少女たち(過去形)には、垂涎ものの面子であろう。サウンドも全体的にグランジ以降の洋楽オルタナティヴを独自に昇華した、如何にもな90年代日本語ロック。仕上がり自体は実に申し分のない出来だったりするが、実際にプロデュース陣が自身のバンドで鳴らしていた音と比べてしまうと、毒も牙もない非常に安全な作りだ。それもそのはずで(まあ、最初から分かっていることなんだけれども)、これは「木村カエラ」という一人のアイドルをモチーフに作成された所謂90年代コンピレーション・アルバムなのだ。それ以上でも以下でもない。
で、じゃあその木村カエラ自身の魅力って何だろう?と考えたら、恥ずかしながらさっぱり分からない。雑誌やCMで良く見かけはするものの、僕の知っている限りでは彼女のパーソナルな部分というのはほとんど明かされていない(熱心なファンの方だったらよく知ってるかも知れませんが、普通に生活している上で、彼女自身が科白以外の言葉を自発的に発言しているところをあまりお見かけしないので)。加えて髪型がころころ変わるので外見上のキャラクターもつかみにくい。極端な話をすると、その時その時のコンセプトに合わせてイメージを変える、いわば着せ替え人形的な感じだ。いや、むしろそれが彼女全体のコンセプトそのものなのだろう。同様の手法を採っている女性シンガーに中島美嘉がいるけれど、こちらは神秘的な容姿も手伝ってイメージ・チェンジの度に強烈なインパクトを残しているが、彼女の場合は「どこにでもいる普通の娘」すぎて、逆に散漫になっている気がする。現在は90年代サブストリームロック・リバイバルの広告塔的な存在として活躍してはいるものの、何故彼女が90年代カルチャーと結びついたのかもよく分からないし、彼女がリバイバルすることで何を体現しているのかもさっぱり見えてこない。そんな風にモチーフ自体のイメージが曖昧なので、プロデュースする側も彼女のキャラクターを捉えきれなかった部分があるのではないだろうか。どの曲もそれなりに彼女の側面を映し出してはいるものの、正面からの明確なヴィジョンがないため、アルバムの輪郭もぼやけ気味だ。とは言え、そう言う「はっきり見せない」的なところが戦略としてあるというか、人気の秘訣のような気がしないでもないので、何とも言えないのだが。
とどのつまり、このアルバムは「木村カエラ」という女の子自身に魅力を感じている人にはとんでもなく魅惑的なアルバムであることは間違いない。けれども、僕のような「にわかリスナー」にはちょっと突き放されている感じは否めない内容だ。でも、アイドルのアルバムって元来そう言うものだしなぁ。下手に手を出した僕がいけなかったと言うことでしょうか(笑)。