Catch The Wave / Def Tech

最高のマスターピース

Catch The Wave
しばらく忙しい日々が続いてBlogの更新も滞り気味に。これでは良くないなと自分に言い聞かせ、色々な音楽や映画のことについて書こうとここ数週間頑張ってみたのだが、どうにも筆が進まない。「進まないってお前それでもプロかよ」と突っ込まれてしまえばそれまでなのだが、忙しくなると感覚が麻痺してしまい、プライベートな言葉が出てこなくなってしまうのだ。入力も鈍くなるし、出力も鈍くなる。そうなると、ちょっとやそっとのことでは心が動かなくなってしまい、しばらくはただただ仕事をこなすだけの無感動な仕事お片づけマシーンと化してしまうのだが(おそらく膨大な仕事をこなすために無意識的に感情をシャットダウンしていると思われる)、そんな状態を一気に覆し、人間に回帰させてくれるものと出会う時がある。それらは大抵2パターンで、いきなり頭をズバンと射抜くような凄まじいインパクトを放つものと、お茶漬けのようにすっと耳に入ってきて徐々に心を潤してくれるという、実に両極端な刺激だったりするのだが、今回はその2つのパターンが波のように押し寄せて一気に流されたという感じに近い。Def Techのサード・アルバム「Catch The Wave」だ。もう凄いアルバムだと言い切ってしまおう。ジャンルが全く違うので比喩の対象に持ち出すのも筋違いかも知れないのだが、これはオアシスの「モーニング・グローリー」に匹敵する完全なマスターピースだ。全曲がシングルカットしても通用するクオリティを誇っており、一曲も捨て曲がない。

柔軟性に富んだ音楽性は言うまでもなく、彼らが何よりも長けているのはリリックの強度だ。韻を踏むことや語感の気持ちよさに囚われすぎて、結果としてただの言葉遊びになってしまっているだけのなんちゃってヒップホップが多い中、彼らは日本語と英語という二つの言語をごちゃ混ぜにし、異なる言葉の間を縦横無尽に駆け抜けながらも、言葉を向かう場所、向ける対象を常に明確にし、それらのど真ん中を鮮やかにぶち抜いている。中には非常に政治的なリリックも含まれているのだが、一時期のヘヴィロック勢がナチ的とも言える偏り方で強行的にオーディエンスをアジテートし、それ故に即座に行き詰まり、短命に終わったことに対し、サーフ・ミュージックのグルーヴと結びつくことで、しなやかに投げかけることに成功している。ラウド故のキャッチーさはないものの、新世紀を迎え、言いようのない不安が解体された現代では、これくらいの「日常に根ざした」言葉の方が実はリアルだ。内省的なミディアムナンバーも、昨今の文学系ロックがこぼす、うじうじとした後ろ向きなものよりも断然前を見据えたものになっており、聞けば聞くほど、彼らの音楽は未来に対して鳴らされていることがはっきりと分かる。これだけ足腰がしっかりした音楽と言葉をタイアップ曲というマーケットに乗っけても自分たちの音楽として成立させるフットワークは、なかなか真似出来ない職人技だ。同じようにヘヴィロックばりの政治的なメッセージとサーフ・ミュージックを融合させたことで思い起こされるのがAIR(from JAPAN)だが、随分とグルーヴィーなものとなった最新アルバム「A DAY IN THE LIFE」と聴き比べても、こちらの方が柔軟性や言葉の訴求力で断然上回っているように思える。と言うか、Def Techがずば抜けてしなやかすぎるのだ。ナチュラルボーンな彼らのグルーヴには、後天的な模倣ではいくら演奏力が上がっても追いつけそうにないと言うことをまざまざと見せつけられる。

更には14曲入り(そのうち5曲はタイアップつき)で1980円という豪華&安価な親切設計。良い音楽は高い金出して買っても全然良いと僕は思うが、こういったところの心遣いも、多くの人の耳に届けさせるためには非常に大事なことだと思う。とにかく興味を持ったのなら、試聴機ですぐ聴いてみて欲しい。2000円が高いか安いかという判断はすぐにつくと思うので。