インサイド・マン

確かに面白いんだけど…

社会派の映画を撮ることで知られるスパイク・リー監督が初めて徹底した娯楽映画に取り組んだのがこの「インサイド・マン」だ。マンハッタンの銀行に立て籠もり、50人の人質全員に自分たちと同じ服装を着せるという陽動作戦に出た銀行強盗団とその事件を担当する刑事、更にとある目的のために事件に介入する弁護士の三者が入り乱れ、互いに牽制し合い、それぞれの目的達成のために心理戦を行うというもの。デンゼル・ワシントンジョディ・フォスターという2大アカデミー俳優の夢の共演を実現させただけでなく、頭脳明晰な銀行強盗団のリーダーをクライヴ・オーウェンが演じ、彼らを迎え撃つ。脇役にも名優クリストファー・ブラマー、ウィレム・デフォーと言った演技派を配置し、まさに現代最高峰の俳優による演技の頂上決戦ともいうべき豪華仕様だ。

ストーリーも演出も実にスパイク・リーらしい都会的なクライム・サスペンス。エンターテイメントに徹しながらも、人種差別や戦争犯罪といったデリケートな問題をチラつかせ、それらが重くなりすぎないよう、茶目っ気のある演出と科白を織り交ぜる。尚かつ緊張感を途絶えさせることなくラストまで引っ張っていく手腕は見事。ただし、ストーリーの本質的な部分をなかなか見せないように刑事、弁護士、強盗団と言ったそれぞれの視点から断片的に物語の全体を象っていく手法を取っているため、序盤の辺りは視点が定まらず、少し散漫な印象を受ける。また、これ以上ない豪華キャストだったり、序盤からかなりド派手にぶち上げたストーリーの割には、メイン・トリックが些か地味。巧みな演出とストーリー・テリングでトリックを決して読ませないミスリードは確かに美しいが、肝心のネタが地味なので、種明かしをされても「ああ…なるほどね…」と納得はしても、「うわ! 騙された!」と言った大きなカタルシスにまでは至らない。更に、豪華すぎるキャストの弊害か、それぞれの役にそれなりの見せ場やらバックヤードを準備しているので、ストーリー全体の締まりがやや間延びな感があるのも否めない。もっと要点を絞って90分ぐらいのスピードでバッサリ見せてしまうか、ネタに見合ったもう少し地味なキャストにすればもっと面白かったような気がするのが実に惜しい。

結果として、確かに面白いが何だか釈然としないと言う、微妙な後味が残る映画となってしまっている。もの凄く極端な言い方をすれば、凝った「オーシャンズ11」と言った感じだ。過大な期待はせず、肩の力を抜いて見れば間違いなく楽しめる作品ではあるのだが、このキャストではどうしても期待しちゃったりするのがまた罪なところ。そう言う意味では、やっぱりミスキャストな映画なのかなぁ。