嫌われ松子の一生

人生は短い目で見れば悲劇だが、長い目で見れば喜劇である

下妻物語」のヒットで、世間にその名を馳せた中島哲也監督最新作。山田宗樹の原作小説を中谷美紀主演で実写映画化。女の子なら誰でも一度は憧れるシンデレラ・ストーリーを夢見る少女・松子。中学校の教師になり、順風満帆な人生を約束されていた彼女は、修学旅行の万引き事件の濡れ衣を着せられてしまい、仕事をクビに。そのまま家出を決行した彼女は、以降転落に次ぐ転落の壮絶な人生を送る。

50年にも及ぶ一人の女性の生涯を追う物語のため、どうしてもひとつひとつのエピソードは短くならざるを得ず、それ故にストーリーの展開も駆け足になってしまうのだが、それを感じさせないのは、やはりCM界で鍛えられた中島監督の手腕によるところが大きい。歌と踊りによるミュージカルシーンを取り入れることで、膨大な時間をコンパクトにまとめたり、少女漫画チックなメルヘンな視覚効果を使って、物語全体の重さを軽減させたりするところも実にうまいが、それ以上に一瞬に込める情報量の多さに感服だ。出番が少ししかない登場人物の背負ってきた人生をたったワンカットで語らせる映像の説得力の強さは、松子の人生だけでなく、彼女の生きた時代と人々を立体的に描き出す。ド派手な演出に目を奪われがちだが、そのきらびやかな映像の奥で、この映画はしっかりと「人間」を描いている。それ故に、一見どうしようもない自業自得な転落を繰り返す松子の人生が光り輝き、ラストでは観客の心を大きく揺さぶるのだ。正直僕は後半ずっと泣きっぱなしだった。松子の転落は自分自身の責任によるところが多く、同情の余地もない。僕自身、松子のような人生は出来ればごめんだし、彼女のような女性とも絶対つきあえないだろう。だけど、どんなに間違っても、どんなに苦しくても、幸せを信じて全力で生き抜いた彼女の姿には、深い共感を覚える。最近はみんな間違うことに臆病だ。一度でも失敗したら、あいつはもう駄目だというレッテルを貼られ、それで終わりのように思われてしまう。だけど、間違えても人生は続くし、生きている以上やり直しは効くのだ。恐れずに生きること。失敗してもくじけないこと。沢山の勇気と感動と、そしてほんのちょっぴりの教訓を決して声高ではなく見せてくれる、素晴らしき人間讃歌映画だと思う。まだの人には是非とも見ていただきたい一本だ。