DEATH NOTE(前編)

高望みしなければ、原作のファンも満足できる作り

名前を書けば、その人間を死に追いやることが出来る「デスノート」。死神が落としたそのノートを拾い、それで悪人を次々抹殺することで、悪のない新世界を作ろうとする退屈な天才・夜神月。彼はやがて「キラ」と呼ばれる存在として、人々から恐れ、崇められるようになっていく。その一方で、キラが引き起こす大量殺人事件を捜査する世界最高峰の名探偵・L。彼はいかなる理由があろうとも殺人は罪とし、キラの存在を突き止め、キラを捕まえようと奔走する。月とL。この二人の天才による壮絶な頭脳戦を描いたのが「DEATH NOTE」だ。スピーディでスリリング、常に予想の斜め上を行く展開はあっという間に爆発的人気を呼び起こし、単行本一巻は発売されるや否やコミック史上最速で100万部を売り上げるという驚異的記録を樹立。以来、現在まで累計1500万部を売り上げている。次々と実写化のオファーが殺到したというこのモンスター・コミックが、満を持して実写映画化された。

僕は原作を連載開始当時から読んでおり、単行本も全て揃えている熱心な読者だが、この「DEATH NOTE」が実写化されると聞いたとき、実際問題難しいだろうなというのが第一印象だった。頭脳戦主体の物語のため、それぞれの思惑がモノローグで語られる部分が多く、それを省いては観客にはスリリングなやり取りが伝わらないと思ったし、死神リュークの存在も最新技術を駆使したCGとはいえ、膨大な予算をかけて1年単位で制作するハリウッド映画のものとは規模が違うため、生身の役者との違和感がどうしても拭いきれないのが想像出来たからだ。しかし、実際こうやって出来た作品を見てみると、非常に上手くまとめている。正直冒頭から月がデスノートを拾い、キラとして目覚めるまでの展開はどうにも間延びした感じがして、これはヤバいかなと危惧したのだが、もたついたのは立ち上がりのみでFBI捜査官レイが登場したあたりから、怒濤のトリック合戦で観客を飽きさせない。ストーリーとしては、3巻あたりの南空ナオミ編までをほとんど忠実に再現。ファンにはおなじみのバスジャック事件、地下鉄(原作では山手線)の攻防、ポテトチップスのあのトリックもちゃんと入っている。これほど性急な展開で、あれだけのトリックの数々をしっかり見せられるものかとハラハラしたが、どれも必要最低限の説明と映像のみで上手く見せることに成功。加えて、オリジナルキャラクターの詩織(香椎由宇)を絡め、南空ナオミのキャラクターを膨らませることで、原作のただのトレースに終わらない、映画版ならではのカタルシスを盛り込んでくれている。ラストも連続ドラマばりに続きが気になる終わらせ方で、後編への橋渡しも万全だ。気になるCGのリュークとの共演シーンも最初は違和感が拭えないものの、ある程度の諦めを持って見れば、そのうち慣れてくる。原作を知らない観客を漫画版にフィードバックさせるには十分だし、高望みさえしなければ原作のファンもそれなりに満足出来る、実によく出来た仕上がりだ。ただし、これは全て月とLが直接対決していないエピソードだから上手く映像化出来たという見方も出来る。恐らく後編で描かれるであろう、月とLの裏の裏の裏まで読み合う直接対決、更に弥海砂の登場で複雑化する攻防、また、原作とは全く違った展開になるであろうストーリーをどう見せられるか…。前編を見終わって尚、それらが依然として懸念事項として残るのは否めない。極端な言い方をすればやはりこれはあくまでも前編であり、前哨戦や壮大な前振りでしかない。実写版「DEATH NOTE」が成功か否かの判断は、いずれにせよ後編に委ねられることになる。

残念と言えば、月役の藤原竜也による直筆の文字が汚いことだろうか。演技としては十分申し分ないのだが、こういう面で月が天才だと言う説得力が薄れてしまうのが非常にもったいない。ここばかりは誰か代筆を立てた方がよかったような気がしてならない。