グッバイ、レーニン!

世界は変わっても僕らは生きる。

グッバイ、レーニン! [DVD]
舞台は東西分断時代のドイツ。10年前に家族を捨てて西ドイツに亡命してしまった父。その現実から目を背けるために、ひたすら社会主義へとのめり込む母。そんなある日、反社会主義のデモに主人公が参加している姿を母が目撃し、卒倒して昏睡状態に陥ってしまう。その間にベルリンの壁は崩壊し、ドイツは統合。社会主義が崩壊した世界で目を覚ました母。ただ、病状は未だ重く、医師からは「ショックを与えると命の保証は出来ない」と宣告される。主人公は、母にショックを与えないために、東ドイツの崩壊を隠し続けるが…。
ドイツ発のヒューマン・コメディ映画。親子愛を根底に置きながらも、当時の時代の流れに翻弄されていく人々の人間模様を悲哀を混ぜて描いていることから、痛烈な社会風刺映画とも取れる。が、「母にショックを与えないために社会主義を演じ続ける」という美味しいシチュエーションを準備した割には、コメディとしての要素は希薄。母親は素直に嘘を信じているし、嘘がばれる危険度もそれほどないため、主人公の行動は終始淡々としている。嘘がばれそうになったときに、映画監督志望の友人に頼み込んで偽のニュース映像を作ったり、すっかり無くなってしまった東側の食料を装うために、古い空き瓶を探してきて中味を詰め替えたりと、字面で書いてみると結構面白そうなのだが、実際そうしたことを行っているシーンはなんとも切ない。子が親を思う気持ちを前面に押し出した完全なヒューマンドラマだ。もう少し、母親にばれそうになるピンチの数を増やして、その度に嘘を上塗りしてドタバタと事態が混乱していくという見せ方(三谷幸喜のお手本みたいなストーリーですが)をすれば、「全てに決着をつける」最後の大嘘と、最後の感動がより大きく胸に迫るものがあったと思うし、社会風刺的なドラマとしても面白味が出たと思う。全編を通して、当時の情勢を笑い飛ばせない真面目さが漂っており、それが作品の面白さを殺しているように感じられたのは僕だけだろうか。まあ、現地ドイツではまだ笑い飛ばせないところがあるのかも知れないが、だったらだったでこのシチュエーションを使うなよと思うところもあるわけで。
かなりな消化不良感は否めないが、ラストの打ち上げロケットとモノローグは無茶苦茶秀逸で胸に迫るものがある。あのシーンだけ何度でも見返したくなるような、爽やかさと物悲しさ。これアメリカとかイギリスのノリでリメイクしたらもっと面白くなるかもなぁ。ドイツ映画はほとんど観ないのであんまりはっきりとした考えは言えないが、「es」の時もそうだったけど、どうも舞台設定に頼って、テーマや方向性や作品のノリの焦点がどうにも定まっていない気がする。ストーリーも編集も探りながら作っている感じ。少し煮詰めるだけではっきりしてくると思うんだけどなぁ。どうにも「ぼんやり」しているのが腑に落ちません。