マシニスト

肉体が語る力

マシニスト [DVD]
極度の不眠症で1年間眠っていない男に襲い掛かる不可思議な出来事の数々。彼は何故1年間も眠れなくなってしまったのか? 知らぬ間に残されているメッセージの意味とは? そして、謎の男の正体とは…?と、如何にも最後に大どんでん返しが待ち構えている気配が漂っているあらすじであるが、実際のところ期待するようなオチは待っていない。むしろありふれたオチであったりするのだが、物語の序盤からそれを隠そうという気配すらないので、オチはそこまで大切ではないと言うことでしょう。
役になるためになら努力を惜しまない性格俳優であり、すっかりカルトスターとなったクリスチャン・ベールが30kg近い極端な減量に挑んだことで話題のこの作品。まあ、極端な話をすると、それ以外見所がないといえばそうだったりするのであるが、実際見てみると極限までそぎ落とされたクリスチャン・ベールの肉体が語りかけるリアリズムはもの凄い。人間の肉体というのはここまで痩せても生きていけるものなのかと息を飲むほど、研ぎ澄まされたオーラが画面の向こうから有無を言わさず語りかけてくる。ありふれて一歩間違えたらギャグにしかならないストーリーと抑揚が乏しい演出がこの肉体ひとつに助けられていると言っても過言ではない。限界を超えた睡眠不足で現実と非現実の境を見失い、静かに発狂していく様が本当に鬼気迫って見える。映画の善し悪しは別にして、この肉体それだけで確実に評価に値する。完全に芸術の域に達していると思う。どれだけ撮影技術やCGが発達しようと、ただ一人の役者が出す肉体のリアリズムの前には勝ち目がないことをはっきりと証明している。
実際、クリスチャン・ベールはこの映画の為のダイエットとして、一日リンゴ一個でずっと過ごしていたらしい。その後の「バットマン・ビギンズ」の為に太らなくてはいけなくて、そっちの方が大変だったと語っているのだから頭が下がる。最近ビールを飲み過ぎて、少しお腹が気になる身としては、やればここまで痩せられるという実例を目の当たりにし、ダイエットの励みにもなった。いや、マジで。