バタフライ・エフェクト

Stop Crying Your Heart Out

バタフライ・エフェクト プレミアム・エディション [DVD]
タイムスリップによる過去改変とそこから起こるタイムパラドックスに翻弄される主人公というのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズで散々やり尽くされたネタで、このシリーズのイメージが大きすぎるのもあるのだろうけど、ドタバタとしたSFコメディになりがち。が、そのドタバタした部分をコメディじゃなくてサスペンス、スリラーに取り替えて、最後の最後でギリギリファンタジーなラインで終わらせることで切なさまでプラス。結果、全く新しいタイムスリップ物を生み出すことに成功したのではないだろうか。

主人公は幼少期より、何度か記憶が飛ぶことがあり、そのために色々なことを日記につけるという習慣があったのだが、その日記を読み返す(日記を媒介して過去の記憶を辿ろうとする)と、途端に記憶が失っている当時の自分と入れ替わる能力を持っていることに気づくというのがこの映画のミソ。つまり、

 リアル記憶  入れ替わり中   リアル記憶

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と言う風に、日記により未来の自分が当時の自分に介入しているから、幼少時に何度か記憶をなくす瞬間があったというわけ。この前提で、前半は主人公の幼年期、少年期のエピソードにある程度時間を割いて、丁寧に記憶を失う瞬間を描くと同時に、「改変するポイント」のフラグをいくつか立てておき、中盤から後半にかけて、あらゆるフラグに遡り、どんどん過去を改変していく過程を見せていく。観客は事前に幼年期、少年期の過程を見せられており、尚かつ大事な部分がブラックアウトしてしまっているので、「その場で何が起こったか?」という肝の部分の謎解きと、その後の改変によって「どういう未来が待っているのか?」という二つのポイントを一気に楽しむことが出来る。更に、主人公が過去改変を行うごとに、様々な事象が入り乱れて事態は悪化し、主人公は更に過去を改変するために奔走することになるという、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が3部作で3回行ったことを、たった一作でその倍近く行ってしまうスピード感とストーリーテリング力はかなりのもの。全編がクライマックスのように素晴らしいテンションが保たれているので、見ていても飽きが来ないし、見事に伏線を回収していく様は爽快ですらある。過去改変のアイテムが日記で、デスノート並にお手軽だから簡単に何度も過去改変が出来ちゃったりするのだが、そのお手軽すぎるところが途中何度か障害や枷になって、結果主人公が退っ引きならないところまで追いつめられるという話の見せ方も秀逸だと思いました。

ただ、納得のいかない部分も確かにあるのです(辻褄とかじゃなくてね。まあ辻褄で気になる部分もあるけど、そこまでこだわらない方なので)。例えば、一度フラグAの過去に戻るとします。で、改変して戻ってきて、結果失敗していたと。で、もう一度フラグAの過去に戻って「じゃあ今度はここをこうしてみよう」と言う風にやってみたら、案外うまくいきそうなシーンが何度かあるのですが、主人公はそうしないで別のフラグに飛んでみたりするのですね。同じフラグに飛べないとか、同じフラグに対して回数制限があるとか特別ルールがあるわけでもないのに。それがわからない。まあ、何度も同じところに戻ってちまちまやり直していたら映画として退屈な部分もあるけど、だったらだったでそうしない理由づけが欲しかったというか。まあ、いくつかはちゃんと理由があったりもするんですけどね。でも大半に説明がないのはちょっと辛いなぁ。そこまでがっちり補強するか、もっとルールを絞って縛りをきつくすればもっと緊張感が出たかも知れないし。

後、散々走り回って最後の最後で導き出す結論がかなり普通というか、「ええ、結局それかよ!」なところも。確かに主人公にとって苦渋の決断だし、これ以上ないくらい「切ないハッピーエンド(宣伝文句)」ではあるんだけど、観客としては驚きがないと言うか、ぶっちゃけ単純短絡的に吹っ切れ感すぎ。いやいや、もっと上手く立ち回って見てもよかったんじゃない? 富樫や荒木だったらもうちょっと上手く立ち回った上で終わらせられるよと思ってしまう部分もありました。まあ、それでもエンディングテーマにOasisの「Stop Crying Your Heart Out」流れ出したら泣いちゃったけどね。演劇だったら「それベタすぎだろ」と失笑してしまうような選曲だったけど、映画だと普通に泣けるのは何でだろうね。

あ、そうそう。少年期の主人公達が見に行ってる映画が「セブン」なのに思わずにんまり(主人公の使用している日記もジョン・ドゥーと同様の物!)。あー、こいつら(監督だか脚本家だか)フィンチャー好きなんだなぁと。この間の「SAW」といい、ここに来てフィンチャーフォロワーがかなり熱い感じであります。

色々ぐだぐだ書いてはいますが、現時点では今年観た映画で一番面白かったです。遂にDVDになり、お茶の間でも気軽に楽しめるようになったので、是非(むしろ是非もなく)堪能してみてください。このDVDのプレミアム・エディションには直前までどっちにするか迷ったという「もうひとつのエンディング」のディレクターズ・カットバージョンも収録。こればっかりはレンタルでは見れないけど、3990円出す価値は絶対に保証します。

この作品にハマったら「TRU CALLING」は絶対見た方が良いので、こちらも要チェック。