SAW

新感覚ソリッド・シチュエーション・スリラー

SAW ソウ DTSエディション [DVD]
えーっと、これから見よう、もしくはちょっと気になっているという人はここから先は一切読まないで下さい。見てから読んで下さい。直接的なネタバレは避けますが、敢えて何の情報も無しで見た方が絶対面白いと思う。それでも読むのは勝手なので無理強いはしませんが(笑)。

とりあえず宣伝で煽ってるほどショッキングではないです。まあ、これに関してはハードすぎるから修正したって話だけど、修正前の映像を見たこと無いので何とも言えません。苦手な人でも結構見れるレヴェルだと思います。世間では「セブン」ミーツ「CUBE」と言われてるらしいけど、実際見た感じではどっちかというと「フォーン・ブース」ミーツ「ユージュアル・サスペクツ」ではないかと。シリアルキラー「ジグソウ」の死に迫るゲームを行うことで生命の素晴らしさに気づかせるという手口は「フォーン・ブース」の「罪の告白」を迫る犯人に通じるものがあるし(「フォーンブース」の場合は動機が一切不明だが)、ストーリーの語り口全てがミスリードになっている構造は「ユージュアル・サスペクツ」に繋がっている気がする。これが的を射ているかどうかは分からないけど、いずれにせよ「セブン」のジョン・ドゥーのような観客を欝に叩き込むような深遠な闇はどこにもなく、犯人は非常にポジティヴで明確な動機を持って行動しているし、「CUBE」のような不条理なシチュエーションやアイテムを駆使した障害のクリアと人間の心理劇がストーリーのメインにもなっていない。だからと言って面白くないと言えばそうでもなくて、むしろすんごい面白い。なんつーの、そう、これ凄い攻めてるのね。酷い話だけど欝になるって言うよりただただ驚いて面白いってそれだけ残る。「スティング」とかの感覚に近い。かなりアッパー。そう言う意味ではホラー、スリラーとしては新感覚だよなぁ。

バスルームに二人が繋がれてて、真ん中には自殺死体っていうシチュエーションはそれだけで面白そうだし、かなりの魅力を感じるけど、それだけで2時間持たせようと思ったらそれはそれでしんどいと思うのね。実際フタを開けてみると用意した舞台を持て余して小さくまとまっちゃいましたって感じの尻すぼみ作品も結構あるわけじゃないですか。「フォーン・ブース」なんかもそうだけどワン・シチュエーションにこだわるあまり、話が広げられなくて60分くらいしか話が保たないところをわざわざ80分まで引き延ばしたせいでかなりダレたし。そういうのも計算したのか天然なのか(僕は前者だと思うけど)、ワン・シチュエーションだけに頼らず、捜査する刑事や事件以前の登場人物の背景に焦点を当てたのは正解でしょう。回想という形で小出しに語られる捜査の進行や登場人物の秘密が徐々に入り乱れて来て、誰が犯人でも有り得る状況を作り上げると同時に、ストーリーを飽きさせない趣向にもなっているので退屈に思えるシーンがひとつもない。加えてそこにあらゆる伏線を盛り込んでいるので全てのシーンに意味があるという凄まじさ。ぶっちゃけ「ジグソウ」の正体ってそこだけ見れば全然驚かないレヴェルなんですわ。ただ、そこに至るまで小さい誤差で最終的には大きくミスリードしていく巧さはとにかく見事の一言。今の世の中、色んなオチが用意されてきて、観客もそんなに驚かなくなってきてるので、「どう落とすか」ではなく「どう騙すか」というところに力を入れたのは凄く正しい選択をしたと思います。

って考えてみたら何も新しくないし、「大どんでん返し」らしい大技は何一つ使ってないな。かなり姑息な小技の積み重ねがうまく繋がってカタルシスを生んでるって感じでしょうか。でも、大技に頼って総スカン食らってる人とかもいるし(誰とは言わないけどシャマランとか。いや、俺は大好きだけどさ・笑)、そう言った意味では地味であれ「語る」というもっともシンプルで基礎的な部分を固めたのは偉いよなぁ。これは評価されていい映画だと思う。ひらめきだけじゃなくてどう見せればより面白くなるかって事を徹底的に考え抜いた映画だから。いや、本当これ見てよ。最初に見てないヤツは読むなとか書いておいて何だけどさ、人とアレコレ語りたくなるから、はやく見てよと言いたくなる(笑)。てなわけでもうスリラーとか絶対ダメ! 「ホラー」とか「スリラー」とか「サイコ・サスペンス」って字を見ただけで倒れちゃうという神経の細い人以外は全員見て欲しい。これと「笑の大学」は見て欲しい。金とか身体使った映画じゃなくて頭使った映画だから。頭使えばいいってもんでもないけど、最近はちょっと脳死気味の映画が続いたんで、久しぶりに巧みに驚かされたり泣いたり笑ったりするのも良いんではないでしょうか。