エターナル・サンシャイン

許すことが愛

エターナル・サンシャイン DTSスペシャル・エディション [DVD]
ミュージックビデオ界の鬼才、ミッシェル・ゴンドリーと曲者脚本家、チャーリー・カウフマンによるタッグ2作目。前作「ヒューマン・ネイチュア」の出来がイマイチだっただけに、それほど期待していなかったのだが、今回はお互いの持ち味を上手く引き出したと言って良い出来だと思う。
別れた恋人クレメンタインが記憶消去サービスを受け、自分との思い出を消したと知ったジョエルは、激仰して自分もクレメンタインとの思い出を消去することに。だが、記憶を消していくうちに、彼は彼女との記憶が愛おしくなり始める。しかし記憶の消去は一度始まったら途中でキャンセルは出来ない。彼は、クレメンタインの記憶が消されないよう、自分の記憶の中を逃げ回ることに…という風に、物語は記憶の中を逃げ回るジョエルと、現実世界で記憶を消す博士達の二つの視点が平行して描かれていく。
「記憶消去」という装置をひとつ潜り込ませるだけで、シンプルなラブストーリーに変革をもたらせただけでなく、ピュアさをアップさせる手腕は見事。突飛な発想なのにも関わらず、それに頼ることなく「人間」を軸にしたことで設定に踊らされていないところにも好感。更には凡庸なキャラクターの主役とヒロインを際だたせる、ひと癖もふた癖もある脇役陣にもにやりとさせられる。現実世界の人間模様を絡ませることで、記憶消去から逃げ回る主人公というだけでは、中盤以降中弛みしがちになってしまうストーリー展開に広がりを持たせ、そこからラストへの橋渡しがされている点も上手い。この辺の人間模様の悲喜劇もカウフマンの18番ではあるのだが、毎回引っかき回しすぎてぐだぐだになってしまうところを、今回はシンプルに押さえたことでぐっと引き締まった印象。キー・パーソンとなるキルスティン・ダンストが滅茶苦茶魅力的にも見えた(僕はこの人を一度も可愛いと思ったことがなかったのに!)。
ストーリーの構成も少し入り組んでいて、軽くネタバレになってしまうのだが、それを読み解くヒントはクレメンタインの髪の色になっている。この映像的なギミックも物語をシェイプアップさせる技として光っているのも見逃せない。気づかない人は純粋に驚くだろうし、全てがはっきりした時に物語の齟齬が全て上手く噛み合う瞬間も心地良い。読みとっていたとしても、後半の展開をだれさせない役割も果たしている。ただ、ラストのお互いを罵るテープを聴いたときに、二人が「これは本心じゃないんだ」と言い訳して、最後に許し合うところはちょっとどうかなぁと思ってしまった。何というか、愛するってそう言うことなのかなと。罵り合った上で、それを受け入れて認めないと、また同じ過ちを繰り返してしまうんじゃないかなぁと。でも、この部分に関しては、一緒に見ていた恋人に言わせれば「あれでいい」らしい。
「許し合うことが愛なの。突き詰めて考えると駄目になる」と彼女は僕をいなすように言った。なるほど、思い返してみれば僕は彼女に沢山「許してもらって」今に至っている。「許す」という行為。目を背けているようだが、その曖昧さが既に相手の駄目な部分も含めて全てを享受しているということなのか。何でも理屈で割り切ればいいってものでもないということね。この映画から見えてくるのは人間の不完全さだ。だとすれば、その不完全さにのみ人と人の分かり合える場所もあるということか。ごめんよ。僕はまたひとつ君に「許して」もらったわけだ。