きみに読む物語

愛し続けるという意味

きみに読む物語 スタンダード・エディション [DVD]
療養施設で記憶を亡くした老婆に物語を聞かせる老人。その物語とは、1940年に出会った身分違いの若い男女の恋物語だった。それは若き日の老人と老婆の姿。彼はこの物語を読み聞かせることで、彼女の記憶を取り戻そうとするのだが…。
出会いと発展、身分の違いから二人の仲は引き裂かれ、やがて再会。だがしかし、すれ違いの結果彼女の方には既に婚約者がいたりと昼のメロドラマかと言うくらいベタな展開が続いてしまうわけだが、主演二人の演技から発せられる恋愛のパッションと美しい風景がそれを力業でねじ伏せて、瑞々しく見せることに成功している。加えてこれを過去の話とし、読み聞かせる老夫婦という別のフィールドを用意したことで、従来の純愛ドラマにはない深い感動がラストに用意されている。
プロットから最後は老婆の記憶が戻ってめでたしめでたしでしょ?と考えてしまいがちだが、この映画で老婆がかかっているのは認知症であり、記憶が一時的に戻ったとしても完治することはない。実際、その壁が大きく立ちはだかるシーンも描かれており、安っぽい愛の奇跡では終わらせないのがミソだ。その揺るぎなき現実の壁を超えた究極の愛の奇跡という意味では、この映画のラストシーンは何よりも美しく、そして深く胸に突き刺さる。
僕が後どれくらい生きて、後どれくらいの間他人を愛せるかは分からないが、30年後、40年後、生きていられてまだ一緒にいられるのなら、こんなジジイとババアになっていたいなぁと素直に思う。愛が無くてもセックスは出来るけど、下の世話は愛が無くては出来ない。大切な人がそうなってしまったときでも、迷わず手を差し伸べてやれるほど幸せなことはないのではないだろうか。愛し続けることが必ずしも美しいとは言わないけれど、誰かのために何かをしてあげたいと思う気持ちは、人生を動かす上では一番の原動力なのだ。その原動力に突き動かされて、僕は残りの人生を駆け抜けたい。