ハサミ男

監督との相性が圧倒的に悪かった作品

ハサミ男 [DVD]
第13回メフィスト賞受賞作であり、映像化不可能とまで言われた「ハサミ男」を「人魚伝説」の鬼才・池田敏春が映像化。女子高生を狙い、殺した後に喉にハサミを突き刺すシリアルキラーハサミ男」。"彼"は新しい獲物、樽宮由紀子をつけ狙ってる最中、同様の手口で彼女が殺されているのを発見する。自分ではない他の誰かによる犯行を突き止めるため、ハサミ男は犯人探しを始めるのだが…。
原作の最も肝である部分を序盤からあっさりと明かしておきながらも、ここにひとつギミックを盛り込むことで、映像化不可能とまで言われた物語を可能にしているのは「なるほど、こういう手があったか」と感心させられはしたが、演出が平淡だったり、カットや編集がいちいち古くさかったりで映画として面白いとはとても言えない。何も知らずに見せられて70年代の火曜サスペンス劇場の再放送だと言われたら、多分何の疑問も持たないほど全てが古い。この古さが映画の内容とマッチしているのなら文句はないのだが、原作の「ハサミ男」は非常にスピーディであり、その速度故に巧妙に張り巡らされたトリックにあっと驚かされるという非常に現代的な作品だけに、この人選は完全にミスマッチだろうと思う。言ってしまえば、この映画で評価出来るのは、原作を映像化するために盛り込んだ冒頭のワン・アイデアただそれだけで、それ以上のものはない。そのアイデアも手法としては随分と使い古されてきたものなので、中盤辺りでほとんどの観客が気づいてしまう。いや、むしろ隠そうという気もほとんど見られない。どちらかというとその"ギミック"の部分を主題と捉え、後半はそれを昇華するためのエピソードが付け加えられているので、事件が終わったにも関わらず、(言っては悪いが)どうでもいい話を延々と見させ続けられるのは非常に苦痛だった。結果として単純な娯楽ミステリィだった原作に無駄な解釈を持ち込むことで、物語の全体像がぼやけてしまい、結局何がしたかったのかと言うことがさっぱり分からないまま映画は終わってしまっている。このアイデアでもっと現代的な演出に徹底すれば、成功したのではと思えて仕方ない。猛烈な麻生久美子ファンな僕でも、2時間見ているのはしんどかった。