シン・シティ

漫画を実写化することの意味とは?

アメリカン・コミック界のカリスマ、フランク・ミラーの代表作「シン・シティ」を実写映画化。監督を務めるのはロバート・ロドリゲス、原作者のフランク・ミラー、そしてスペシャルゲスト監督としてクエンティン・タランティーノがワンシーンのみ参加。本国の方では誰もが知る有名な漫画だけに、実写映画化はかなりの話題になり、出演したいという役者が殺到。おかげで「裏オーシャンズ11」とも言うべき豪華キャストが実現している。
架空の町「シン・シティ」を舞台に繰り広げられる3人の男たちの一途な愛をハードボイルドタッチに描いたこの作品は、CMや広告から受ける派手さやクールさは一切感じられず、とことんハードボイルドに、とことんヴァイオレンスに突っ走るため、思っている以上にストーリィは地味だし、結構エグい描写もあるので、デート映画としてはあまりオススメ出来ない。更には、全編デジタル撮影なので、肝心のヴァイオレンスシーンがどうも迫力に欠けて肩すかしな部分も。まあ、原作がコミックなので、そのフィクションらしさも味というか、それによって上手く暴力が中和されている感じもするのだが、「フロム・ダスク・ティル・ドーン」のようなチープでぐっちゃぐちゃなヴァイオレンスを求めていた僕としては、デジタル映像の中で、やたら綺麗に動き回るキャラクターにどうにも違和感を覚え、最後までノリ切れないで消化不良に終わってしまった。
ただ、どこまでも渋く男臭い作品であるにも関わらず、一番光っているのはどれもこれも女性のキャラクターというのがこの作品の見所のひとつといえる。各エピソードのヒロインは、ただ守られるステレオタイプなヒロインではなく、強く凛々しく自分の信念を信じて行動する者たちばかり。その気高き誇りを背負い闘う姿は、あまりに美しく、逞しい。明らかに主人公である男たちを食ってしまっている。特にデヴォン青木ブリタニー・マーフィは凄く良い。ジェシカ・アルバも超可愛いが、こちらは正当派ヒロインに近すぎて、もう少し頑張りを見せて欲しかったというのが正直なところ。
また、CMやあちこちに貼られたポスターを見れば分かる通り、本作はモノクロ映像にパートカラーを施した実に斬新な映像。奇を衒ったのかと思ったが、これは原作のテイストをそのまま活かしたもの(原作もモノクロにパートカラー)。更には、シナリオ、登場人物の容姿、画面の構図など、全てかなりのレベルで原作を忠実に再現しているというのがウリのひとつでもある。が、これに関して個人的な見解を言わせてもらうと、そこまで原作に忠実であるならば、実写映画化の必要性が全く感じられない。現在公開中の「NANA」にも同じことが言えるのだが、原作を忠実に再現して、制作者の意思が入る予知がないのならば、ぶっちゃけアニメでいいんじゃね?とすら思ってしまう。
小説の映画化と違って、漫画は最初から絵コンテの段階のようなものだ。下手をすれば原作のコミック本を開きつつ、そのまま映画を撮ることも出来る。だからこそ小説以上に監督の解釈が試され、それを楽しむことも出来るのではないだろうか。何もかも漫画のまま映像化したのではあまりに芸がなさ過ぎる。どこかひとつでもロドリゲスらしさを見せられれば、十分に彼の作品として機能していただろう。けれどもこれは、最初からフランク・ミラーフランク・ミラーによるフランク・ミラーの「シン・シティ」でしかない(ヴァイオレンスの部分にロドリゲスらしさは垣間見えるものの、前述したようにどうもいまいち吹っ切れていない感じが強い)。原作者の意向が高すぎたと言うことか。魅力的なキャラクターが多く(イライジャ・ウッドの恐ろしいまでの気持ち悪さは個人的にかなりヒット)、映像もスタイリッシュでハマれる要素が沢山あるので、もう少し突き抜けられればなという印象。