SINGLES / NEW ORDER

未完のメランコリィ

シングルズ
今年のフジロックでトリを務めたことも記憶に新しいNEW ORDER(4年前のホワイトステージの悪夢を吹き飛ばす素晴らしいパフォーマンス!)の81年のデビューから、06年シングルカット予定曲までを一気にひっくるめたシングル集。とは言え、「International」や「Retro」とここ数年だけでも、立て続けにベスト盤を出しているというのに、この期に及んでシングル集(2枚組)までリリースとは。「馬鹿野郎! いくつ買わせる気だよ!」と思いつつも、今回は「Everything's Gone Green」「Temptation」「Confusion」がCD初音源化、収録曲は全て7インチのシングルバージョン、更には全曲最新リマスタリングと聞けば、買わずにいられないのがファン心理。悔しいことに上手い具合に戦略にはまっている。愚痴愚痴文句を言ってはいるが、「Everything's Gone Green」は個人的には大好きな曲だし、「Ceremony」の最初期バージョンの収録はやはり嬉しい。「Run」ではなく盗作&回収騒ぎがあった「Run2」というのも痒いところに手が届いている感じ。概ね満足といったところか。うふふ。
イアン・カーティスの死から、NEW ORDERへと変化をせざるを得なかった彼ら。初期は陰鬱で絶望的な気分をダンスビートに乗せて昇華する事で新しい道を切り開いてきたが、いつの間にかダンスする喜びそのものに比重を置いたバンドに変化していった。もちろん憂鬱や不安などはどの作品を通じても根底に流れるもので、その基盤自体は変わっていないのだけれども、憂鬱や不安に向き合う姿勢は初期と現在では格段に違う。その変化はこうやって発表順に聴くことではっきりと見えてくる。
デビューシングルであり、イアンを弔うという皮肉的な意味も持った「Ceremony」。がむしゃらな衝動がその後の方向性を切り開いた「Everything's Gone Green」。そこから結実した「Blue Monday」の持つダークサイドなダンス衝動。「Perfect Kiss」の甘い夢のようなひと時、「Bizarre Love Triangle」「True Faith」が放つ神々しいまでの煌めき、「Regret」の祈りにも似た美しさ、「Crystal」で勝ち得た強度、「Here To Stay」の加速する疾走感、「Krafty」で掲げた希望。ベクトルはその都度違えど、どれもこれも僕の胸を熱くしてくれる。
デビュー四半世紀経とうというのにNEW ORDERは未だ不完全なバンドだ。甘く切ないメロディもどこか欠落しているような穴があるし、演奏自体もかなりボーダーライン上にある(あれだけ危なっかしいのに、成立しているのが不思議でしょうがない)。だが、未完成だからこそ、メロディは胸に迫るし、バンド自体もここまで進化して来れたのではないかとも思う。絶対的な強度を誇るバンドは強いが脆い。2度の実質的な解散を経ても尚しなやかにマイペースに活動が出来るのは、自分たちのその不完全さと向き合いつつ、模索しているからではないだろうか。
最後を締めくくる曲は「Turn」。ここがまだ折り返し地点と言わんばかりの憎い演出。NEW ORDERはこれからも未完のメランコリィを奏で続けるだろう。そして僕はそれを聴く度にきっとまた胸を熱くするのだ。