Set and Drift / DIEFENBACH

デンマークからの静かな奇襲

Set and Drift
MewKashmirと密かに注目を集めだしているデンマークだが、またひとつ注目を集めそうなバンドが頭角を現してきた。DIEFENBACHというコペンハーゲン出身の5人組。元々彼らはポストロック的なインストゥメンタル集団で、その筋では注目を浴びていた存在。2ndアルバム「Run Trip Fall 」でボーカルものも取り入れてポストロックファン以外へのアプローチも成功。その後MYLOとのツアーを経て一躍注目を浴び、期待が高まる中今回の新作がリリースとなった。新しく見せたポップエレクトロニカロック路線か原点回帰のポストロック路線か。どちらの方向性を選ぶのかというのも非常に関心を集めた一因であったが、結果として今作では2ndで見せたボーカルものを押し進める方向を打ちだし、ポップフィールドをぐんと広げてきた。勝負に出たとも取れる振り切れ方だ(音響系バンドの今の現状を考えれば、生き残るために変化したようにも思える)。
元々の得意とした轟音、音響的なアプローチはほとんどなりを潜め、代わりに前面に出てきたのはポップなトラックとキャッチィなメロディ。ブレイクビーツ、ヒップホップ的な要素をふんだんに取り入れつつも、電子音と生楽器をバランス良く調合し、さらりと聴かせるダンサブルギターバンドとしてすっかり生まれ変わっている。最近のニューウェーブリバイバルを多少なりとも意識してはいるが、元々持っているオルタナ指向がメインストリーム的ではない独特の捻くれ感(サブカルチャー的とも言える)を演出。Death Cab For Cutieの持つUSインディー精神も匂わせてくるのは計算なのか、天然なのか。いずれにしても、この独特の陰鬱な気怠さと何処までも耳障りの良いポップさは、好きな人間にはたまらなくハマれる中毒性を秘めていることは間違いない。あまりに口当たりが良すぎて気づきにくいが、曲の持つバックグラウンド(ジャンルや方向性)が非常に豊富で多岐に渡っていることも見逃せない。「こうも出来るけど、こっちの方がきっと分かり易いよね」と言うようないくつかの取捨選択を通り、無駄な要素を省いたからこそ出せる旨味だ。何を使い、何を省くか。膨大な知識と経験から練りだした職人技にも似たシンプルさが非常に心地良い。
ニューウェーブリバイバルに血眼になり、Franz Ferdinand劣化コピーのような新人バンドで溢れかえっているUKロック市場。対するUSはというとRadioheadに殺されたフィジカルなロックが00年以降完全な迷走状態にはいり、ある種の思考停止とも取れるポップ・パンクが再び勢いづいている。それぞれのシーンに面白いものをもちろん感じている部分もあるが、こうも同カラーで塗りつくされたのでは少々胃もたれもするもの。そんな時に、北欧からこういった少し変わり種が現れると、鮮やかに見えてもしょうがないのかも知れない。喜ばしくも恐ろしい静かなる奇襲だ。