ИATURAL / ORANGE RANGE

ただのチャートヒッターで終わるのか、新世代のフリッパーズ・ギターとなれるのか。

Иatural
このCDが売れない時代に前作「MusiQ」のセールスが200万枚を突破するという快挙を成し遂げたORANGE RANGE。ヘビィなギターと3MCによるスピーディなマイクリレーを基本とするヘビィロックスタイルと、沖縄の民謡的な要素も取り入れたメロウなバラードという振り幅の広さに、どの曲も決まって抜けが良くキャッチィなサビを持っており、ライヴでフロアを盛り上げることも視野に入れている親切設計なところを見ると、無邪気でありつつかなりの確信犯であることが如実に伺える。去年から今年にかけてのあちこちの音楽アワードでの新人賞やレコードセールス賞を総ナメにし、その後発売したシングルのセールスも軒並み好調とまさに一人勝ち状態。あっと言う間に日本を征服してしまったのは、ここで説明するまでもないことだろう。
しかし、それと同時に巻き起こったのが、壮絶なまでの「パクり」批判。シャンプーの「トラブル」とキャロル・キングの「ロコモーション」を引用したとされる「ロコローション」や、くるりの「ワンダーフォーゲル」とゲームソフト「Dr.MARIO」のBGMを引用したとされる「以心電信」など、ネット上にまとめサイトが出来、批判の嵐が巻き起こったことも記憶に新しいし、そう言った騒ぎが未だ根強く続いていることも事実である。
僕の考えを先に述べさせてもらうと、「パクり」自体はそれほど気にならない。売れているので注目が集まっているのと、引用元が分かり易すぎるので目立っているのもあるだろうが、こういったフレーズの引用自体は今に始まったことでもないし、それほど珍しいことでもない(まあ、僕自身が渋谷系から音楽を聴き始めた人間だから、引用に対してあまりにも慣れすぎていると言うこともあるんだろうけど)。重要なのは構成力と見せ方だ。ORANGE RANGEはこの構成力が非常に長けているバンドである。誰もが知っているフレーズを意図的に組み込み、誰の耳にも覚えやすい抜群のポップソングに仕上げる技は、チャートヒッターとしては非常に優秀と言えるし、若干20歳かそこらのNAOTO(ギター兼作曲担当者)がこれだけの構成力と演出力を持っていることは純粋に驚きだ(本当に一人で作っているなら)。恐らくNAOTOだけはORANGE RANGEが解散しても確実に一人生き残れると思う(本当に一人で作っているなら)。これほどまでにトラックの作りこみがしっかりしているにも関わらず、何故かボーカルの部分が甘かったり、録音の音質そのものがデモテープ並みに雑だったりするところに意図的なものも感じる(今の録音機材を持ってすればピッチやテンポも簡単に修正出来る)。思っている以上に彼らが綿密な戦略の元動いているバンドであることはほぼ間違いない。
だが、「彼らがロックアーティストか?」と聞かれれば、僕は眉をひそめ、腕を組んで「うーん」と唸ってしまう。ロックンロールというのは「生きる」と言うことだと思うし、その「生きていく」中で、どれだけのことを叫んでいけるか、獲得していけるか、発信していけるかだと思う。今、僕が見る以上、ORANGE RANGEは何も発していない。与えられたこと、求められていることに対してリアクションを返しているだけにしか見えない。音楽を楽しむ、ただライヴをやって、オーディエンスと時間を共有しているだけにしか見えない。それだったら、ジャニーズのコンサートでもいい、と僕は思う(誤解のないように書いておきますが、ジャニーズのコンサートが悪いというのではなく、ロックとしてはと言う意味です)。自分たちから何かを訴えていくこと、何かを変えていくこと、オーディエンスに変化を与えられるだけの強烈な求心力。ORANGE RANGEがただのチャートヒッターとして消えていくか、新しいロックを切り開く先駆者になり得るかは、そこに掛かっていると思う(まあ、その何もないところが現代っ子らしいと言えばそうなんですけどね)。
前置きが凄く長くなってしまったが、メンバー脱退という一種の転換期も迎えた彼らのサードアルバム。シングルでの計算高い仕事ぶりは既に安定期に入り、見事なクオリティを誇っているが、その他のアルバム曲には少しぶれが見える(それでも曲の多さに関わらず、どれも高水準ではある)。前作で広げた音楽性を少し狭め、タイトな印象を持たせているし、ジャケットデザインも白地に黒文字で「ИATURAL」とかなりシンプル。曲も無邪気さは踏襲しつつも、シリアスな部分が目立つ。その結果、今までの奔放で自由度の高い音楽性は形を秘め、少し窮屈な印象を与える。例えるなら、クラスのお調子者が急に真面目振る不自然さ。メンバー脱退と「パクり」騒動という試練を経たことも影響しているだろうが、明らかにORANGE RANGEが今後の方向性を検討しだしている時期に入っていると言える。ただ楽しいだけの、ただ暴れるだけの、フラストレーションを昇華するためだけの音楽でなく、何か(音楽シーンかバンドそのものかは知りません)を変えていくためにはどうすればいいかという模索をしている。敵は多いが、時代を切り開くものには障害がつきものだ。それをねじ伏せられるだけのアーティストになっていけるかどうか、不安と期待は入り乱れつつも、僕は見守りたい。とは言え、これだけ賛否両論を巻き起こすバンドというのも近年ほとんど居なかったのだから、それだけで彼らは何かしらの求心力を持っているということだろう。武器は既に持っている。後は、それをどう使っていくかだ。