SLIVER / NIRVANA

燃え尽かせてもらえない皮肉

Sliver-the Best Of The
一昨年は「You Know You Are Right」を収録したベストアルバムを発売、去年は未発表デモトラックを大量にパッケージしたボックスセットを発売し、今度はそのボックスセットから曲を更に絞り込み、3曲の未発表音源を追加して販売してしまうと言う、何ともまあ「いくら何でもこれはやりすぎでしょう」と言ってしまいたくなるようなトホホなベスト盤が出てしまったわけだが、考えてみれば前回のボックスセットだって、曲として成立していないようなデモ音源が大量に収録されていたわけだから、贅肉を省いたということと安価である面を見れば、こっちの方が親切かも知れない。
僕とNIRVANAの出会いは中学時代に遡る。当時、京都の田舎町で思春期故の有り余るリピドーに身を任せ、学校では最低限舐められないよう虚勢を張り、パンクロックと刑事貴族ダウンタウンのコントをこよなく愛していた僕の遊び場といえば、カラオケボックスかボーリング場しかなく、その日だって、いつも通り何となく特に仲の良いわけでもないその場しのぎのいつものメンバーと、ボーリングでもしようよ、女子誘えばパンチラ見えるかもよとか、どうせそんなくだらない理由で行くことが決定したんだと思う。今は全く行かないので分からないが、当時の田舎のボーリング場には必ずと言っていい程ジュークボックスがあり、100円を入れれば自分の好きな曲(もちろん登録されている曲しか選べないが)をかけられるという、クラシックなシステムが未だ通用する時代だったのだが、そこで洋楽に詳しい友人がリクエストしたのがNIRVANAの「Smells Like Teen Spirit」だったのだ。
正直、脳みそがぶっ飛ぶかと思った。冒頭のFコードからなだれ込む爆裂世界。呪うようでいて、救済を求めているかのようなカート・コバーンのボーカル。それまでSex Pistolsが全てだった僕の音楽観を一瞬でアップデートしまう驚異の経験だった。「Hello, Hello, Hello, How Low?」という鬱屈としたフレーズが、片田舎のボーリング場でただただ無意味に青春を過ごしていた僕に、言語の壁を超えて何かを問いかけていたのかも知れない。その日は、ボーリングも女子のパンチラも気の抜けたコーラの味も何もかもどうでも良くなっていた。何かが生まれるときの圧倒的なパワーが、少なくとも田舎の中学生を一人目覚めさせる程の求心力が、「Smells Like Teen Spirit」には確実に宿っていた。その足でCDレンタルに走り、「NEVER MIND」をテープにダビングした僕は、それを擦り切れるまで何度も何度も聴いたのだが、僕が高校に入学して間もなく、カート・コバーンはこの世を去ってしまった。遺書には「消え去るより、燃え尽きた方が良い」と書かれていたという。
あれから11年。自らの手で命を絶ち、グランジ・ムーブメントを終結させたカート・コバーンは今ではすっかり伝説となり、消え去ることはなくなった。ただ、思い通りに燃え尽きられたかと言えばそうでもないのが現状だ。彼の残した音源がこういう形で何度も発売され、その度に権利関係でのもめ事がフィーチャーされ、燦然と輝くNIRVANAの歴史が摩耗されていく。それもまた、このバンドの持っている力故に避けて通れないのかも知れないが、事実上くすぶり続けなくてはならないというのは何とも言えない皮肉だ。恐らくこれからも手を変え品を変え、NIRVANAの音源は世に出ることだろう。その度に僕は少し虚しい気持ちに襲われる。どんなに形を変えたところで、リアルタイムで経験したあの熱さだけはもう戻ってこないのだから。
NIRVANA関連の話題といえば、カート・コバーン最期の48時間をモデルに制作したガス・ヴァン・サント監督の最新作「ラスト・デイズ」も来春日本公開。こちらも要チェック。