HORIZON / レミオロメン

10年先も聴けるアルバム

HORIZON
「粉雪」の大ヒットで一躍トップアーティストに躍り出たレミオロメン。デビュー以来、ネクストブレイクと謳われつつも何かとタイミングが折り合わず、アジカンにお株を奪われたり、サンボに先を越されたり。「ロッキンオン」を始めとするサブストリーム系のカルチャーでは絶大な支持を誇りつつも、一般的な市場での認知度は今ひとつ上がらず、随分と不遇の時代を過ごしてきた。ドラマタイアップという大きな後押しを受け、ようやくのことで日の目を見た彼らが、その人気を定着させるべくメジャー街道に向けて放つ「勝負のアルバム」が本作「HORIZON」である。
様々な期待を背負わされた形となるアルバムだが、その期待に十二分に答えられる程この作品が持つポップ指数は、はっきり言ってかなり高い。シンプルなメロディと計算されつくしたアレンジによる洗練ポップミュージックのオンパレード。ジャケットのデザインが似ていることもあるが、どことなくMr.Childrenの名作「Atomic Heart」を思い起こさせる完成度だ。スリーピースバンドであることにこだわらず、ストリングスやキーボードをふんだんに取り入れることで、サウンド的にぐっと広がりを持たせることに成功しているが、それ以上にそういったサウンド面のアプローチが彼らの武器である「言葉」により彩りを加えたと言うことが重要なファクターとなっている。
そもそも「粉雪」のヒットの要因は、サビの「こなぁぁぁゆきぃぃい」と言うフレーズのインパクトの強烈さも然ることながら、日本語歌詞をしっかり読み聞かせるという、日本人の日本語による日本語ミュージックに回帰したことが大きい。ほとんど小説的と言って良い、情景と心象を描き出した独自の世界をメロディに乗せて歌うというのは、渋谷系以降、散文詩として解体されてしまった日本語ロックの揺り戻しを通り越して歌謡フォークの域まで達しているが、絵画的なヴィジョンと共感性をもった言葉が音楽という水を得ることでより鮮やかに動きだし、映画の如きポピュラリティーを発揮する。そのノヴェルが多くの人の心を捉えたのだ。
音楽に乗せて、言葉を読ませる。考えてみれば最も健全で最も基本的なことなのだが、それをここ10年ほど日本のポップミュージックがおざなりにしてきたのも事実だ。このアルバムには新しさはないが普遍性がある。言葉にするのは簡単だが、実際に普遍性のある作品に出会うのはそうそうあることではない。どんなにチャンスに恵まれなくとも、自分たちのポップを貫いたレミオロメンだからこそ作り得た、10年先も聴ける会心作だ。