どろろ

映画よりも連続ドラマ向きな作品かも

手塚治虫原作の漫画「どろろ」を妻夫木聡柴咲コウ主演で実写映画化。天下を取るという父・醍醐景光の野望のために身体の48カ所を魔物に奪われて生まれてきた主人公の百鬼丸。妖怪を一匹倒すごとに失った身体を一体取り戻すことが出来ることを知った彼は、偶然出会った泥棒・どろろと共に妖怪退治の旅をすることに。やがて彼は自分の身体の秘密とその元凶である父の存在を知り、運命の中で苦悩する…。

ロード・オブ・ザ・リング」や「ナルニア国物語」が撮影されたニュージーランドでロケを敢行し、スケール感のある映像と黒沢和子による色彩豊かな衣装が映えるビジュアルイメージは一瞬で目が惹きつけられる美麗さを誇っており、予告編を見た限りではかなり胸躍るものがあったのだが、予告編の段階であまりに期待しすぎたせいだろうか、実際見終わってみると少々肩すかしな感じが残ったのは否めない(いや、これは僕自身の問題でもあるのだが)。原作のストーリーは当時の手塚氏のスケジュールの都合上、ほとんど打ち切り的な結末を迎えており、かなり消化不良に終わってしまっているのだが、それを再構築して物語としての着地点をつけているのと、どろろの身体に隠された「財宝探し」のエピソードを省くことで、物語を「妖怪退治」と「醍醐景光との対決」という要素に絞った以外はほとんど原作に忠実に作られている。とは言え、少し「妖怪退治」の面をクローズアップしすぎたのではないだろうか。妖怪を倒すことで百鬼丸は身体を取り戻して行く(同時に弱体化もして行く)というエピソードは「どろろ」の肝ではあるのだが、ほぼ序盤でそのストーリーは十分すぎるほどに語られている。にも関わらず、中盤でダイジェスト的に妖怪3体とのバトルシーンが描かれているせいで、このシーンだけが前後のストーリーから浮いてしまい、物語の繋がりを完全に途切れさせてしまっている。肝心の妖怪も予告編を見た限りではフルCGのクリーチャーかと思いきや、実際は着ぐるみベースにCGを少し加味した程度のもので、美麗な背景や衣装と比べると安っぽく感じてしまう。所々にある特撮ヒーロー的なバトル演出に好感も抱いたが、やはりどうしても必要なエピソードと思えず、蛇足的な感じが拭いきれなかった。この部分を端折るだけで、物語が全体的に引き締まる気がする。後半の醍醐景光、実の弟多宝丸との対峙から人間ドラマと運命の皮肉さがぐっと深みを増してくるだけにかなり惜しい。

また、百鬼丸と旅を共にするどろろが女性だということは原作では結構どんでん返し的に後半で明かされる真実なのだが、この映画では最初から隠さず柴咲コウが堂々と演じている。その事に最初は確かに違和感を覚えるのだが、後半で自分の運命を知って苦悩する百鬼丸が、ひとつの結論に至る理由づけとして機能しているので、このアレンジはそれらの計算を踏まえた上でのものと考えて間違いないだろう。別にパラノイアチックなまでに原作に忠実であることにこだわる必要はどこにもないのだ。漫画は漫画。映画は映画それぞれの面白さがあっていいと思う。

そんな風に映像化する事で出てくる良い面と悪い面が交互に顔を出すので、見ていても「あ。ここはちょっとなぁ…」「あ。ここは面白い」と一喜一憂してしまい、全体的に見ると「つまらなくはないけど、凄く面白くはない」というなんとも中途半端な気分で試写場を後にする事になってしまった(まあ、先にも記述した通り、僕自身の期待値が高すぎたせいもあるのですが)。2時間半で無理矢理まとめあげなくては行けない映画よりも、どちらかと言うと連続テレビドラマの方が合っている作品かもしれませんね。予算的な都合上難しいかもしれませんが。